珈琲とmilkのパーセンテージ

苦かったり甘かったりするので無機質の筆や箱で切り取ってみる。

オリヴァー・ツイスト(新潮社)


www.shinchosha.co.jp

 

気になった頁

p.165

私があらんかぎりの愛情を捧げた人たちは墓の底に横たわっている。わが人生の幸せと喜びもそこに眠っているが、この心の棺はまだ作っておらず、私のもっとも温かい感情をそこに永遠に封印したわけではない。深い苦悩は愛情を強めるだけだ。そうあるべきだろう。苦悩はわれわれの本性に磨きをかけるのだから」

ブラウンローがオリバーに話す内容です。苦悩は愛情を強める、はビルとナンシーの関係にも言えるんだろうか?ハリーとローズにかからないことを願います。

苦悩は本性に磨きをかけるのはナンシーをみていてそう思います。

 

やらいでか

そう!本読んでたらビル・サイクス「やらいでか」って言うとこあって!それはONE PIECEのバギーでしか聞いたことなかったから本当にびっくりしました!イメージが違いすぎる🔴

 

p.325

酔っているナンシーに心に秘めているビルを絞首台へ送る企みを吐露して慌てるフェイギン。なんだかんだ綱渡りの中、この人も生きているんだなと感じます。

 

p.468

「あんた、おれを探してたのか」彼は言った。「あの窓からなかをのぞいたときに」

 

「探していなかったようだな」見知らぬ男は口元に静かな皮肉の表情を浮かべて言った。「でなければ、おれの名前を知っているはずだから。あんたはおれの名前を知らない。言っとくが、訊かないほうがいいぞ」

モンクスの場面。私これめちゃくちゃ格好良いと思ってまして。怪しさと高ぶりと恐れと期待と全て詰まっていていい!モンクスは偽名だからおれの名前=本当の名前を知っているか。

 

p.514

 ナンシーは、通りや不快きわまりない娼家や犯罪者のねぐらで人生をすり減らされていたが、まだ女らしい心根も持っていた。自分のいる部屋のドアに廊下から近づいてくる軽い足音を聞き、狭いところでもうすぐ向かい合う相手と自分との落差を思うと、恥ずかしさが重荷のようにのしかかってきて、みずから会見を申しこんでおきながら会うことに耐えられなくなったかのように身をすくませていた。
 しかし、その美しい感情とせめぎ合っているのが自尊心だったーー社会の最下層の卑しい人間にも、身分が高く自信あふれる人間にも等しく見られる悪徳だ。泥棒やごろつきのみじめな仲間、悪党のたまり場をうろつく堕落した宿なし、絞首台の影の下で生きる、監獄や囚人船のゴミかすのような連中の友だちーーそんな落ちぶれた身でも自尊心が働きすぎて、女らしい感情を弱みと考え、その頼りない光を外に出すまいとする。ところが、本当はそれだけが彼女を人間性と結びつけていたのだ。幼いころからのすさんだ生活で、外からはその痕跡すらうかがえなくなった人間性と。

恥ずかしさが美しい感情で、人間性

 

p.520

「帰りたいんです」娘は言った。「帰らなきゃならない。なぜってーーあなたみたいに純粋なかたにこういうことをどう説明すればいいのかわからないけどーーさっき話した人たちのなかに、ひとりとりわけ無茶な人がいて、放っておけないんです。そう、たとえいまの生活から救われるのだとしても」

p.521~522

「決して手遅れということはないわ」ローズは言った。「改俊と償いに関しては」
「もう遅いんです」娘は心の苦悩に身悶えしながら言った。「いまさらあの人を置いていけないーーあの人の死の原因になるなんて」
「どうしてそうなるの?」
「あの人は何があっても救われないんです」娘は叫んだ。「もしあたしがあなたに話したことを、ほかの人にも話して、あの一味が捕まることになったら、彼はまちがいなく死ぬでしょう。一味のなかでも飛び抜けて向こう見ずで、かなり残酷なことをしてきたから」
「そんな男の人のために、将来の希望も、いますぐ確実に助かる道も、すべて捨ててしまえるものなの?」ローズも叫んだ。「正気の沙汰じゃありません」
「そこはわからない」娘は答えた。「わかるのは、あたしだけじゃなくて、同じように悪くてみじめなほかの何百という人たちにとってもそうだってこと。とにかく、帰らなければ。自分がまちがったことをしてきたせいで、神様の怒りに触れたのかどうかはわかりません。でも、どんなに苦しかろうが、ひどい仕打ちを受けようが、あたしはあの人のところに引き戻される。たとえ最後にはあの人の手にかかって死ぬとわかっていても、戻っていくでしょう」

p.524

「あなたほど若くて、善良で、美しい女の人でも」娘はしっかりとした口調で言った。「誰かに心を捧げたら、その愛にどこまでも引っ張られていくものですーーたとえあなたみたいに家があり、友だちや、ほかに褒めてくれる人たちがいて、心を満たすあらゆるものを持ってる人でもね。ましてあたしみたいに、ちゃんとした屋根といったら棺桶の蓋しかなく、病気になったり死んだりするときにも病院の看護婦しか友だちがいないような女が、どこかの男に腐った心を寄せて、かつて親か家か友だちが占めていたか、ずたぼろの人生でずっと空っぽだった場所にその男を入れた日には、まっとうな道に戻る希望があると思います?憐れんでください、お嬢さん。女のたったひとつの感情だけが残されたあたしたちを。神様の厳しい審判によって、それが慰めや誇りに変わらず、暴力と受難の手段になってしまったあたしたちを、憐れんでください」

p.599~600

「ひとつの理由は」娘はきっぱりと言った。「お嬢さんが知っています。あたしの味方になってくれます、きっと。約束してくださったのだから。そしてもうひとつの理由は、たしかにフェイギンは悪い生き方をしてきたけど、あたしだって同じなんです。同じ道を歩んできた仲間が大勢いて、どのひとりもあたしを売ることができたのに、そんなことはしなかった。みんな悪ばかりなのにね。だからあたしも彼らを裏切らない」

ナンシーとても魅力的で好きになっちゃう!だからナンシーがビル・サイクスに惹かれる理由を自然に考えていたりするんだけど何思ってもそうかぁぁ〜ってなる。

ナンシーと対面するのはブラウンローよりローズの方がよりナンシーの生まれと生活の違いに気づけます。また読者はローズの気持ちが分かるから善意を否定するナンシーが背負うものが分かりやすい。


p.559~561  魔法の数字は一だ

「人はみな自分の友だちだ」フェイギンは答えた。「ある魔術師は、三が魔法の数字だと言う。別の魔術師は七だと言う。だが、ちがうのだよ、わが友人。どちらでもないのだ。魔法の数字は一だ」
「は、は!」ボルター氏は大声で笑った。「一よ、万歳!」
「わしらのような小さな集団ではな」ユダヤ人はいまの見解をもう少し説明する必要があると感じて言った。「みんなが一番なのだ。わしやほかの若い連中を抜きにして自分だけ一番と考えるわけにはいかない」
「そんな馬鹿な!」ボルター氏は叫んだ。
「つまりだ」ユダヤ人は相手の口出しに気づかなかったふりをして続けた。「われわれは一心同体で、ひとつの利益を追っている。そうでなくてはならん。たとえば、おまえさんの目的は一番ーーつまり、おまえさん自身ーーの面倒を見ることだろう」
「たしかに」ボルター氏は答えた。「そんなとこだな」
「だが、わしの面倒を見ずに、一番の自分の面倒だけ見ることはできない。わしも一番だからだ」
「二番、てことだろ?」利己主義の資質に大いに恵まれたボルター氏は言った。
「ちがう!」ユダヤ人は言い返した。「おまえさんにとって、わしはおまえさん自身と同じくらい大切なのだ」

「わしの言いたいことを、はっきりわかってもらうためさ」ユダヤ人は両眉を上げて言った。「絞首台から逃れるために、おまえはわしに頼る。わしの小さな商売を繁盛させるために、わしはおまえに頼る。最初のがおまえの一番で、次がわしの一番だ。おまえにとって自分の一番が大切になればなるほど、わしの一番に注意しなきゃならん。そこでわれわれはようやく、わしが最初に言ったことに戻るわけだーー一番を大切にする気持ちがわしらをひとつにする。みんなで粉々に吹っ飛びたくないなら、そうでなくてはいけない」

気分をのせてルールを教え込む。

 

p.564

どれほど自分の職業に誇りを抱いているか

この文章怖くない?スリに対して純粋な誇りがあるの。知らずにしてることはいえナンシーに守ってもらえないくらいにはアウトな道に踏み込んでるというのに。

 

p.616

「おれを外に出せ」サイクスは言った。「話しかけるな
ーーただじゃおかんぞ。出せと言ってるだろうが!」
「ひと言だけ聞いてくれ」ユダヤ人は鍵に手を置いて言った。「あんたーー」
「なんだよ」
「あんまり|手荒なことはしないよな、ビル?」
夜が明けかけて、ふたりが互いの顔を見られるだけの光があった。つかのま彼らは視線を交わした。まちがいなく、どちらの眼にも炎が燃えていた。
「つまり」フェイギンはいまさら取り繕ってもしかたないと開き直って言った。「手荒なことをすると、かえって危ない。うまく立ちまわるんだ、ビル。無茶なことはしないように」
サイクスは返事をしなかったが、ユダヤ人が鍵をまわすとドアを引き開け、静かな通りに飛び出していった。

フェイギンはわざと話しているところもあるよね?そうじゃないかもだけどナンシーは許していないし、ビルも憎く思っている。

ナイフの最後のひとひねり。

荒地『プルーフロックその他の観察』より「風の夜の狂詩曲」

荒地 - 岩波書店 (iwanami.co.jp)

最終的に”ユダヤ人が鍵をまわすとドアを引き開け、”はフェイギンの意思であり、終わりへの示唆に思える。全ての引き金。荒地は娼婦が早朝部屋へ戻りカギを差し開ける様だと思うけれどその光景を思い出します。

 

P.660

「なあ、チャーリー」サイクスは進み出て言った。「おれがーーおれがわからないのか?」
「それ以上近づくな」少年はうしろに下がりつづけた。殺人者の顔を見すえ、眼に恐怖の色を浮かべて。「この化け物!」
男は途中で止まった。ふたりは見つめ合ったが、やがてサイクスの眼がだんだん下を向いた。

もううううううう無理~~~~ってなるやつ。ここ悲しすぎて胸が張り裂けそうな気持ち。このビル・サイクスあれだけ色々言っておいて芯の部分では仲間を信じてるんですよね。私はその信じる心がロンドンへ行けば助けてくれる人がいるかもしれないと向かわせたんじゃないかと思う。大人はともかく子供にまで「化け物」と呼ばれる気持ち計り知れないけれど最後の頼みの綱さえなくなってしまった実感はしんどいことだろうと思う。この後、チャーリーと取っ組み合いをするけどこの絶望的な心情でさえチャーリーをねじ伏せてしまう力。力があることの悲しさも感じますし、力があるからどうにかやってこられたともいう。なんかもうほんとやるせなさすぎて。

 

感想

ブラウンロウが取る行動は法の元、当然の行動なのだと思う。ただそれをただニュースのように知るには読者はあまりにも悪人とされる人々の人間らしさやささやかな喜び、そして懸命に生きようとする輝きを知りすぎている。だから読んでいてブラウンロウが悪人にも思えるほど辛い気持ちになるのです。

 

心理描写や最期に人はどうなるのかが怖すぎて普通に恐怖小説。読んでるだけで怖いんだわ。ビビりは震え上がります(なんで怖いものに限って深夜に読んじゃうのかね?)

『七月に流れる花』面白すぎて本屋探して続きの『八月は冷たい城』いそいそ読んだらあまりにも怖すぎて無意味にテレビつけて一人ホテルで震えてた感覚思い出しました(笑)

ビルが追われる眼、暗闇に浮かび上がる目でパッと手近なものを思い浮かべるとCATSの目です。あれは神の目なんだろうか?旧約聖書的な神かな?いやそれにしてもだったら目チカとかなかなか緊迫した場面なんでは?と今更ながら思ったりしました。きっと警察官が通ると何もしてないのにちょっと緊張しちゃうことがあるようなものかな?

フェイギンの「年寄りですんで」悲しさしかない。自分自身でもあまりに多くの命を奪っていることを知っているんだろうなぁ。それくらいしか言えることないんだよねきっと。

 

口喧嘩してたブラウンロウとグリムウィグがいつもの習慣で嗅ぎ煙草をやって仲直りの握手するの、かわいすぎて無理なんだけど🙈いつもやってるの…お互い喧嘩するより友であることを結局は選ぶんでしょ?ええええかわいい…

 

オリバー・ツイストのあとがきに"ディケンズにも独創的なエネルギーの源となった先駆者たち"がいて、"古い素材と、ほんのわずかに新しい素材、フランス革命から来た素材を混ぜ合わせている"とある。オリバー・ツイストは古典ではない、それはそうだとしてもそうかぁ~と思うには充分で凹む。というのもやっとイギリス作品・CATSに自然に含まれている源流を見つけたような気がしていたからです。ここが行き止まりではないのだと果てしない気持ちになりました(笑)いつか気づきたい…。

 

気になった事柄

煙突掃除の少年

実はディズニー映画「メアリー・ポピンズ」でも有名なこの仕事、イギリスでは一時期は子供達がやっていたのです。工業化に伴い、18世紀の後半から、平均年齢10歳の児童労働者が工場や炭坑、また、煙突掃除屋として働いていました。彼らは孤児や貧しい家の子供達で、雇用者に弟子入りさせられ、仕事の報酬として衣食住の面倒をみてもらっていました。体の小さい子供は煙突の中に入れるので、狭い煙突の中を掃除するのに最適だと思われていました。「climbing boys(登る少年)」と呼ばれるこの子達は煙突の中を登り、中をブラシできれいにし、木材を燃やす事ででるタールを削り取る仕事をしました。

ディズニーの描写とは裏腹に、煙突掃除の仕事は過酷なものでした。埃やすすの吸引による窒息ややけど、また煙突の中につっかかり動けなくなる等して多くの子供達が亡くなりました。さらに、1775年には外科医のPercivall Pottが、毎日その仕事を行う事による毒素吸引と陰嚢癌の関連について発表しています。子供の頃からclimbing boysとして煙突掃除に携わっていた人の癌の発病率が顕著に高かったそうです。

http://englishantiquehouse.blogspot.com/2016/09/qta.html?m=1

オリバーは結局ならなかったけれど実情のひどさ、もし煙突掃除夫になっていたら命はなかったんだろうか?

 

産業革命

NHK高校講座 | 世界史 | 第25回 産業革命と社会問題

 

都市モデル

ロバートオーウェン

https://www.y-history.net/appendix/wh1201-083.html

ユートピア 

https://t.co/Z7NkaSYFHS

ユートピアだよりとは - コトバンク

住み分けが気になります。

 

ブルズアイは噛み付く

良かったよ~~~やられるだけじゃなくて。でも一番は殴られなどしないことですね。

 

平均寿命

図録▽平均寿命の歴史的推移(日本と主要国)

産業革命時の平均寿命 | 日本史・世界史★クイズで楽しめ

原作読んでるとビル・サイクスがあんまりな態度と言葉づかいだからこのまま生きていけると思っているのだろうか?と考えざるを得ない。力は失われるもの、この先の未来を案じて産業革命時の平均寿命を調べるくらいはしました。ナンシーが言うように仕方ないとは思えないよ~~なのにビル、いきなり病気になって動けなくなっていて怖くなってしまった。病気になることもあるのにあんなに罵詈雑言、暴力奮ってわざわざ恨み買うように生きてるの…そりゃあ無茶だよ😭少しの時間だったとしてもナンシーがいてくれてよかった…!ありがとう!!ナンシーがいなかったら3週間も熱があるのに放って置かれただなんて。ナンシーだけが聡いよ~~ビルはフェイギンが分かってないし、フェイギンはあからさまだって分かってないし。

 

衛生

舞台はとても綺麗だなと思うけど、映画も綺麗だったんだなと知りました。きっと想像も出来ないほど汚く臭いとても私など暮らしていけない様子だったんでしょう。消毒も出来ず、今なら公害と呼ばれる汚染されたテムズ川。普通に生きていくのが奇跡のような世の中ですねきっと。